可動の柱(一種の駒)を用いる長胴型ツィター族の撥弦楽器です。絃の途中を押さえて別の音程を作ることをしないで、常に開放絃の状態で使用します。曲の途中で柱をうごかし、調絃を変えることも可能ですが、左手が演奏にかかわっているときは不可能です。
[音域・調絃]
1. 十三絃
下記の白音符の範囲が常識的です。
古典的調絃の例として下記の平調子がありますが、ディアトニックに調絃したり、十二音列やモーダルな調絃も可能です。
2. 十七絃
下記の白音符の範囲が常識的です。
低音を支える十七絃の場合、ディアトニック調絃が普通です。各音に#や♭がついても問題はありません。
3. 二十絃
下記の白音符の範囲が常識的です。
二十絃の最も基本的な調絃です(実際には21絃あります)。各音に#や♭がついても問題はありません。
[右手の技法]
右手の親指(指番号1)人差指(2)中指(3)に「ツメ」をはめて演奏します。1指は手前から向こう側に、2、3指は向こう側から手前に絃をはじきます。
1. かき手、割り爪、かき爪 隣り合った絃を2、3指ではじく古典的奏法です。2本以上の絃や、1指で下降することも可能です。
2. 合せ爪
複数の絃を同時に弾きます。左手も使うことができますが、左右3本ずつ、計6本程度までがよいでしょう。アルペジオのように発音時間をずらせば、グリッサンドを含むことも可能です。
3. 押し合せ 押し手(後述)によって隣あった絃に同音をつくり、同時に弾きます。
4. スクイ爪
1指の爪の裏で絃をすくうように弾きます (a) 。普通の奏法とスクイ爪の交互の連続で、早い同音反復が可能です(b)。絃をこすりながら強くすくうこともできます(c)。
5. 散らし爪
2指か3指の爪の横で絃を右から左に急速に摺る奏法です(a)。(b)は爪の先を使ってする奏法です。
6. すり爪
2指と3指の爪の裏側で隣り合った2本の絃を摺ります。古典的奏法では往復します。音程感はありません。
7. 打ち爪 爪の腹で絃をたたきます。強奏では衝撃音が強く(あまり大きな音は出ません)、弱奏では音程感がはっきりします。
8. 打ち掻き 3、4本の絃を斜めに急速に掻きます。
9. グリッサンド 爪でも指でも左手でも可能です。柱の左側は調絃されていないので、その部分を使うと不思議な効果が得られます。また、絃の右側の駒(竜角)のさらに右側の部分を使用すると、Violinの
Beyond the Bridge同様の音程の一定しない高音が得られます。
10. 弾く場所の指定
(1)N.R.(Near the Ryukaku)は竜角(頭部の駒)に近いところで弾く。硬い音がする。
(2)Off R.(Off the Ryukaku)は竜角から離れたところで弾く。柔らかい音がする。
(3)普通の位置に戻るときにはPosition ord.と指示する。
11. トレモロ
[左手の技法]
1. 押し手 左手で柱の左側の絃を上から押して絃の張力を高めて、半音または全音高い音を作ります。譜面上には押して出された結果の音を記譜します。押していない状態をあえて示す場合には丸印をつけます。また、柱の左側に絃の余裕のない低音の場合、全音押し上げることが不可能な場合があります。
2. 押し響き 弾いたあとに押し上げる奏法です。ゆっくり押し上げるときには線を記入します。押し上げた音を弾きなおさない場合にはスラーを付けます。
3. あと押し 弾きなおさない押し響きのあと、他の低い絃を弾く奏法です。
4. 押し放し 押して弾いたあとに放します。
5. ゆり 弾いたあと、柱の左側の絃を左手で揺すり、ヴィブラートをつけることが可能です。
6. 引きいろ 弾いたあと、柱の左側の絃を右に引っ張り、音程を下げます。高音域、低音域では困難で、中音域では約半音程度下げることができます。通常装飾的な効果のみに使用し、調絃にない音を作るために引きいろを使用することはありません。
7. 突きいろ 弾いたあと、柱の左側の絃を瞬間的に突くようにして余韻の音程を一瞬上げる奏法です。
8. 消し爪 左手人差指の爪を柱のすぐ右側(弾く側)に軽く当てて、右手で弾きます。騒音的効果の混ざったビリついた音が出ます。
9. ミュート 左手の指を柱の真上に軽く当てて右手で弾き。余韻をミュートします。
10. ピチカート 「ツメ」をはめていない指で弾くという意味なので、左手だけでなく、右手の4、5指も使うことができます。その場合は、押し手も可能です。Pizz.と記入し、「ツメ」に戻るときはord.と記入します。また左手の場合には音符に+印をつけることもあります。低音の絃や高音の絃の柱の左側では、バルトーク・ピチカートも可能です。
11. ハーモニクス オクターブ上の第2倍音のみを使用します。
記譜 聞こえる音 記譜 聞こえる音
12. スタッカート 弾いたあとに左手で余韻を消します。押し手などで左手が使えない場合右手でも可能ですが、連続した速いスタッカートは不可能です。
(監修:久本桂子・秋岸寛久) |